裕也が警報に気づいて研究室に駆けつけた頃には、すでにトイレの周りに数十人の警備員の死体が散乱していた。 真っ暗な部屋の中、非常事態を知らせる赤い警報用ヘッドランプの明かりが、対峙したトイレと裕也の顔を交互に照らし出していた。 「トイレ・・・どうしてこんな・・・」 「基地のやつらは避難したらしいじゃねえか。お前も早く逃げたほうが身の為だぞ。それとも、このベルトの最初の餌食になりたいか?」 そう言うと、トイレは割れたケースの中の、赤いベルトを指差した。 「・・・ねえ、考え直そうよ・・・今ならきっと、みんな許してくれるよ!そしたらもう一度俺たち3人で仲良く・・・」 「3人?・・・ああ、そいつはできない相談だな。」 「どうして・・・?」 「こういうことだ」 トイレは横にあった塊を、裕也に向けて蹴った。塊は、床に撒き散らされた血によってスリップし、裕也の前に止まってからもしばらく回転した。 それが点心であると、裕也が気づくまで時間はかからなかった。ランプに反射して光ったものが、ロンドン大学のバッジだったからだ。 裕也は叫んだ。点心の亡骸を抱いて。 「お友達と仲良く、そのまま天国に送ってやるよ。俺に感謝しな」 トイレはベルトに手を伸ばした。 その瞬間、トイレの手に強烈な電撃が走った。 「うわああああああ!」 トイレは床に転げまわった。指の痙攣が止まらない。 「な、なんだこれは・・・プロテクターでもしかけてあったの・・・か・・・」 目がくらむ。電撃のショックで、一時的に脳のどこかがイカれてしまった。頭がぼんやりする。 もう一度、ベルトのところへ行こうとすると、その目にはぼんやり人影が映った。赤ランプがいちいちチカチカして、どうにもはっきりと目視できない。 「・・・なん・・・だ・・・」 だんだん目の焦点があってくると、裕也がベルトを腰に巻いて立っている姿が現れた。 「裕也・・・!プロテクターが、作動しなかったと言うのか・・・ベルトが装着者を選んだのか?そんな馬鹿なこと・・・!」 裕也はなにも言い返さなかった。彼には、トイレの声なんて聞こえていないのだ。おそらく、今自分がなにをしているのかさえ分かっていないだろう。 ただ、立て続けに起きた友人の裏切り、そして死により、彼の中に彼の理性を超えたなにかが目覚めたようであった。 普段の温和の目からは想像もつかないような冷たい目。明らかにそれは、トイレへの殺意に満ちている。すでに涙は乾いてしまった。 トイレに聞こえないくらいの声で、裕也は何かを口走った。それが変身コードであることを、トイレはすぐ察した。 その瞬間、裕也をまばゆい光が包んだ。部屋の中は、電気がついているかのように明るくなる。 「裕也、お前は昔からそうだ。普段はお間抜けなくせして、いざという時にいいところを持っていっちまう。最低なんだよ、お前は!」 光が止む。まるで舞台のようなスモークが巻き起こると、その奥から赤い目が顔を覗かせ、やがて緑と黒の入り交じった昆虫が姿を現した。 「これが、ロクスタ・ジェンテシステム・・・昆虫を元にしたとは聞いていたが、ここまで昆虫そのままとはな。」 ロクスタ・ジェンテは右拳に力を込め、グッと右足を後ろに下げるて勢いをつけると、トイレに向かって突進してきた。 「裕也、俺はそんな姿にならずとも、お前を殺してやる!そして今度こそ、ベルトは俺のもんだああああ!」 2人の拳がぶつかり合ったその時、世界は眩い閃光に溢れた。