水銀燈「ふん、どうせ真紅はジュンとエッチな事をしてるんでしょ?」

真紅「・・・してないわよ」

水銀燈「嘘おっしゃい、ジュンと舐めたり舐められたりしてるんでしょ?」

真紅「あのね水銀燈、私とジュンは・・・いえ、ドールとマスターはそういう事はしないのよ」

水銀燈「馬鹿にしないで!そんな嘘言われて納得なんてできるもんですか!」

真紅「仮にそうだとしてもあなたが気にすることではないわ」

水銀燈「やっぱりやってるのね?」

真紅「やってないわよ!」

水銀燈「・・・私があなたの立場だったらジュンにエッチな事するわ」

真紅「あなたは契約したことなかったからドールとマスターの関係を勘違いしているのよ」

水銀燈「・・・勘違いとかじゃないわよ」

真紅「私はジュンとエッチしないわ、あなたもマスターとエッチしないでしょ?」

水銀燈「・・・・」

真紅「わかった?」

水銀燈「・・・・私はジュンがいいのよ」

真紅「駄目よ!とにかくジュンは今私と契約しているからそんなことはさせないのだわ!」

水銀燈「別にやりたいって思ってないわよ!ただ私がジュンと契約してたらエッチな事してたかなぁって言っただけ」

真紅「・・・・そうなの、あなたがあまりにも熱心に言うから、もう少しでジュンとエッチさせてしまう気になりそうだったわ」

水銀燈「えっ本当?」

真紅「嘘よ、嬉しそうな顔して・・・やっぱりジュンとエッチしたいだけじゃない」

水銀燈「騙したのね!」

真紅「先に嘘ついたのはあなたの方よ」

真紅「ほら、いつまでもここにいても意味が無いってわかったでしょ?さっさと帰りなさい」

水銀燈「5時になったら帰るわよ!」

真紅「5時は・・・どうしてジュンが5時に帰ってくるって知ってるのよ!」

水銀燈「何言ってるの?そんなことしらないわぁ、ただ5時になったら帰る準備をしようと思ってただけよ」

真紅「準備もなにも、あなた手ぶらで来たでしょ?5時になればジュンが来てそのまま適当な理由つけて居座るつもりなんでしょ?」

水銀燈「勝手な事言わないでよ!私はただ5時から6時の間に帰りたいだけよ」

真紅「一時間も延ばさないでよ!」

水銀燈「私はただ・・・・そうね、蒼星石に用事があって来たのよ」

真紅「なら早く蒼星石のマスターの家に行きなさい」

水銀燈「え?今日来てないの?」

真紅「来てないわ」

水銀燈「・・・本当は翠星石に会いに来たのよ」

真紅「翠星石は蒼星石に会いに言ってるのだわ」

水銀燈・・・・雛苺に」

真紅「雛苺は巴の所に行ってるわ」

水銀燈「じゃあ今日はあなたとジュンは二人っきりなのね?ますます帰るわけにはいかなくなったわ!」

真紅「・・・」

ジュン「ただいま」

真紅「ジュンが帰ってきたわ、よかったわね水銀燈」

水銀燈「・・・」

ジュン「ん・・・なんか黒い羽がいっぱい散らかってるぞ」

ガチャ

真紅「おかえりなさい」

ジュン「ただいま・・・水銀燈が来てるじゃないか」

水銀燈「・・・・」

真紅「水銀燈はあなたに会いに来たみたいなのよ」

ジュン「そうなのか?何か用でもあるのか水銀燈」

水銀燈「なっ・・無いわよ!」

真紅「どうしたのよ、あなたが会いたがってたジュンよ?」

水銀燈「うっ・・・ち、ちょっと何を言ってるの真紅!こっこの男が勘違いするでしょ?」

真紅「どうしたのよ顔が赤いどころか手まで真っ赤だわ」

水銀燈「だからそういう事言わないの!」

ジュン「なんだ用事ないのか、真紅そろそろ飯の時間だから下に行くぞ」

真紅「そうね、それじゃ水銀燈はさっさと帰りなさい、もう5時過ぎてるわよ」

水銀燈「言われなくても帰るわよ!」

ジュン「そうだ、水銀燈も食べて行かないか?今日は翠星石達がいないからハンバーグあまってるらしいから」

水銀燈「ちょっと私を食事に誘ってるつもり?調子にのらないでよね」

真紅「水銀燈は食べたくないみたいだわ、ほら早く下に行きましょう」

水銀燈「食べないとは言ってないわよ!行くわよ、食べてあげるから!」


ジュン「姉ちゃん、一人増えたから」

のり「良かったわ、ハンバーグつくり過ぎちゃったのよ」

水銀燈「よいしょっと」

真紅「水銀燈、どうしてジュンの隣に座るの?席は他にあいてるでしょ?」

水銀燈「どうしてそういう事いうのよ!私はただ何となく座った席がジュンの隣だっただけよ!」

真紅「どうしてそんな嘘をつくの?」

水銀燈「嘘じゃないわよ!真紅がそういう事いうからジュンが勘違いしちゃうでしょ?」

のり「なんか楽しそうね」

ジュン「そこの醤油とって」

ジュン「ごちそうさま」

真紅「今日もおいしかったわ」

のり「真紅ちゃん、そろそろ服を洗濯しない?」

真紅「そうね、お願いするわ」

のり「えーっと、あなたはどうする?」

水銀燈「私?別にいいわよ、選択しなくても」

真紅「あなた外をウロチョロしてるから服に埃とか砂とかいっぱいついてるわ、洗って貰いなさい」

水銀燈「私は洗わなくていいの!」

真紅「ジュンは服が汚れているレディが嫌いなのよ、ジュンに嫌われるわよ」

水銀燈「・・・ジュンとか関係ないけど、気が変わったわ。洗わせてあげようかしら」


のり「じゃあ服を脱いで」

真紅「ほら早くしなさい」

水銀燈「ちょっと待ってよ、羽がつかえて脱ぐのが大変なのよ」

真紅「しょうがないわね、ジュン手伝いなさい」

ジュン「わかったよ」

水銀燈「ちょっと、ジュンに変な格好を見られちゃうじゃない!」

真紅「あなたが無意味に羽を伸ばすからよ、それにこんな格好くらい見られてもいいじゃない」

ジュン「それじゃ先に首を出して、最後に羽の部分から引っ張る感じで」

水銀燈「あっ・・・・」

真紅「ちょっとジュン、レディのそんな場所をつかんじゃだめでしょ?」

ジュン「そうか、ごめん」

水銀燈(真紅・・・余計な事を・・・)

のり「やっと脱げたわね・・・着せるのはもっと大変かな」

水銀燈「それじゃ洗濯お願いね」

真紅「水銀燈、下着まで脱いだの?」

水銀燈「そうよ、どうせなら全部洗って貰おうかと思って」

真紅「・・・ならせめて隠しなさいよ、ジュンが目のやり場に困ってるわよ」

ジュン「・・・・」

水銀燈「いつもあなたたちの着替え見てるんでしょ?」

真紅「私たちでもそこまで見せた事ないのだわ」

水銀燈「ちょっと、先に言いなさいよ!」

真紅「そこまで堂々とされたら、豪快な性格なのかと思ってしまうのだわ」

水銀燈「何か服は無いの?」

のり「ジュンくんのシャツがあるわね、これでいい?」

水銀燈「それでいいわ・・・・着れないじゃない!」

真紅「羽の穴を開けないと駄目ね・・・・この際おっぱい丸出しでいいんじゃないかしら?」

水銀燈「勝手なこと言わないでよ!」

真紅「ジュンも嬉しそうだし」

水銀燈「本当?」

ジュン「いや・・・その・・・」

真紅「冗談よ、シャツを後ろ前に着れば羽があっても着れるのだわ」

のり「それは良いアイディアね」

水銀燈「そんなかっこ悪いじゃない!」

水銀燈「本当にこれかっこ悪いわぁ・・・」

真紅「洗濯中にかっこつけてもしょうがないのだわ」

水銀燈「洗濯してる間はどうするの?」

真紅「ジュンの部屋でダラダラと過ごすのだわ」

水銀燈「そうなの?なら早く行きましょう」

真紅「ジュン、私を抱えなさい」

ジュン「わかったよ」

水銀燈「・・・・・・・・」

真紅「・・・・ジュン、そこでうらやましそうにしている人も抱えてあげなさい」

ジュン「ああ」

水銀燈「・・・・」

真紅「ジュンに抱っこされてる間はずいぶん大人しいわね」

水銀燈「・・・・・そう?」

真紅(また怒って否定するかと思ったのに・・・)

ジュン「ほら付きましたよお姫様方」

真紅「それじゃ私は本を読むのだわ」

ジュン「僕は勉強するけど水銀燈はどうするんだ?日本語読めるなら本を貸そうか?」

水銀燈「いらないわ、あと朝のテンションじゃないと続きを書く気にならないのよ」





水銀燈「・・・・」

真紅「ジュンに抱っこされてる間はずいぶん大人しいわね」

水銀燈「・・・・・そう?」

真紅(また怒って否定するかと思ったのに・・・)

ジュン「ほら付きましたよお姫様方」

真紅「それじゃ私は本を読むのだわ」

ジュン「僕は勉強するけど水銀燈はどうするんだ?日本語読めるなら本を貸そうか?」

水銀燈「日本語わからないからジュンが読んで聞かせて欲しいわ」

ジュン「僕は勉強しなきゃいけないからダメだよ」

水銀燈「そう……残念だわ」

ジュン「何か暇つぶしになるものは…」

あいにく部屋には彼女が楽しめなさそうなものはなかった。

真紅「マスターの元へ帰ったら?」

ジュン「真紅!!そんな事言うなよ。姉妹じゃないか」

真紅はふてくされた様にフンと鼻を鳴らし、自分が読んでいた本に目を戻した。

水銀燈「ジュンが嫌じゃなければもう少し居たわ。服もまだ乾いてないし」

ジュン「僕は構わないよ」

真紅「…………」

水銀燈「ホラ、私に構わず勉強したらぁ?落ちこぼれになっちゃうわよぉ?」

冗談っぽく笑いながら水銀燈はベッドに腰掛けた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ジュン「…………」カリカリ

水銀燈(これがジュンの部屋ねぇ。入ったことはあったけどしっかり見たのは初めてだわ)キョロキョロ

真紅「…………」ペラ

水銀燈(ちょっと退屈だわ)ゴロゴロ

ジュン「………」カリカリ

真紅「…………」ペラ

水銀燈(枕からジュンの匂いがする…)クンクン

退屈そうに寝っ転がったり部屋をキョロキョロしたり落ち着かない水銀燈を見ると放って置けなくなった。

ジュン「………水銀燈、本読んであげるよ」

水銀燈「どうしたのぉ?勉強は?」

ジュン「なんか暇そうで悪くてさ、一冊ぐらいなら」

水銀燈「ならお願いするわ」

水銀燈の返事を聞き、本棚を覗き込む。コレといって大した本はない。のりが買ってきた参考書と昔読んだ文学書が4、5冊。

ジュン「なに読もうか。何か読みたい本はある?」

水銀燈「わからないからお任せするわぁ。」

真紅「なら、この本を読めばいいのだわ」

真紅はさっきまで読んでいた本を水銀燈に渡した。読むほうが嫌になるような分厚い

水銀燈「嫌よそんな難しそうなの。わかりやすいのがいいわ」

ジュン「そうだな。何読もうか」

ジュン「ん?これ、『ロミオとジュリエット』なんてどう?」

水銀燈「面白いかしら?」

ジュン「読んでからのお楽しみ。ほら、読むぞ」

真紅「水銀燈ったら有名な本なのに読んだことないのかしら?そんなのとっくの昔に読んだわ」

ジュン「おい!真紅!!」

真紅(なんでジュンはそんなに水銀燈を庇うのよ)フン

ジュン「あ、うん。いいよ」

真紅「なんだかジュンは水銀燈に優しいわ」

ジュン「そうかな?いつのどうりだけど……。よし、読むぞ」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ジュン「二人の死を期に両家は和解し、二人を祀る金の像を建てることを誓いましたとさ」

水銀燈「…………」

水銀燈の片が微かに震えていた。

ジュン「水銀燈…泣いてるのか?」

水銀燈「なんで…グスッ…二人は…うぅ、死ななきゃ…いけなかったのかしら…グス」

ジュン「水銀燈……」

いつも人間を馬鹿にしたような態度の水銀燈が泣いているのが意外だった。

水銀燈「両家間のくだらない言い争いのためなんかに…グスッ」

真紅「水銀燈、これは本の中のお話なのだわ。大丈夫、誰も死んでなんか居ないのだわ」

水銀燈が泣いているのに何も出来ない僕をよそに、真紅が水銀燈を慰める。

水銀燈「真紅ぅ、…グスッ…」

真紅の言葉に水銀燈はすがる様な瞳で真紅を見る。水銀燈の背中が弱々しくていつもの彼女からは想像も出来ない。

ジュン「落ち着くように何か飲み物もってくる」

膝の上の水銀燈をベットに座らせ、僕は気を利かせて部屋を去る。

真紅「頼むわジュン」

真紅に軽く返事をしつつ、部屋を後にした。

   
    ◆    ◆    ◆    ◆


真紅「…………」

水銀燈「ねえ、真紅」

真紅「なに?」

水銀灯「あなたはどうだか知らないけど、私はジュンが好きなの」

真紅「…………」

水銀燈「ジャンクの私にも優しくしてくれた。アリスになれるようにジュンにも酷い事したのに…」

真紅「……………」

水銀燈「昔はお父様に好かれたかったけど今はもっとジュンに好かれたいの」

真紅「………」

水銀燈「でも、あなたが昼間に言ったように所詮ドールと人間。この本のようにこの恋は叶わないのかしら…」

真紅「…水銀燈……」

水銀燈「私はアリスより人間になりたかった…グスッ」

今日はいつも以上に気弱な水銀燈をみて真紅は無償に腹が立った

真紅「…あなた、本当に誇り高きローゼンメイデンなの?いつまでもメソメソしてないで、前みたく私から奪い取ってみたらどうなの?」

水銀燈「真紅……」

いきなりのことで驚いているらしい水銀燈は言い返してこなかった。

真紅「でも、簡単には渡さないから。覚悟しなさい。ジュンは私のマスターよ」

ニヤリと真紅が笑うと水銀燈も「良い度胸だわぁ」と言ってるかのように笑い返した

水銀燈「そうね、そうさせてもらうわぁ」

がちゃ

ジュン「おっ泣き止んだのか?」

水銀燈「もう、大丈夫よぉ」

ジュン「そうか?よかったよかった。はい、紅茶」

水銀燈「ありがとう。これはジュンが淹れたの?」スッ

ジュン「へたくそだけどね。」

水銀燈「そう……」

水銀燈と真紅は僕が淹れた紅茶を啜った

水銀燈「はぁ、ジュンの入れたお茶はすごく優しい味がするわ」

真紅「………そうね」

ジュン「ありがと。水銀燈も落ち着いたことだし勉強でもするか」

水銀燈「頑張りなさい」

    ▲    ▼    ▲    ▼

翠星石「ただいまですぅ。あー何で翠星石がいやがるですぅ」

水銀燈「いちゃ悪いかしら?」

ジュン「お帰り。水銀燈は遊びに来ただけだよ」

真紅「そんな警戒しなくても大丈夫よ。それよりジュンの入れた紅茶があるわ。飲まない?」

翠星石「いただくですぅ」

ジュン「蒼星石は一緒じゃないのか?」

翠星石「蒼星石はまだジジイのところにいるですぅ。放っとけばそのうち帰ってくるですぅ」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

真紅「あら、もう8時半だわ。もう直ぐ寝る時間ね」

水銀燈「まだ9時に寝るなんてお子様な事してるの?おばかさぁん」

真紅「夜更かしはお肌の大敵だわ。早く寝ましょ、翠星石」

翠星石「まだ若いうちにお肌は荒らしたくないのですぅ」

水銀燈「ドールにお肌なんて関係ないわ」

ジュン「じゃあ僕は風呂入ってくるよ」

水銀燈「いってらっしゃぁい」

〜〜〜〜〜〜風呂上り〜〜〜〜〜

ジュン「ん?水銀燈か。まだ起きてたのか?」

水銀燈「あなたのお姉さんが遅いから泊まっていきなさいって言って譲らないから仕方なくよぉ」

ジュン「のりか……。それは水銀燈の寝床か?」

床にひいてある一枚の布団を見た

水銀燈「そうよぉ。鞄がないから布団を敷いてもらったの。でも、困ったわぁ」

ジュン「何か不都合でもあるのか?」

水銀燈「私にはこの布団は大きすぎるのよ」

ジュン「ハハ、そうだな」

確かに片腕で持てるほどドールは小さい。それにはあの布団は大きいだろう。しかも彼女達は鞄の中で小さくなって寝るんだ。大きすぎてかえって不安だろう。

水銀燈「だから今夜は貴方の布団で寝かせてもらうわぁ」

ジュン「えっ、ちょっ、待って」

水銀燈「何か問題でも?」

ジュン「問題って、ドールとはいえ女の子でしょ。僕と寝るのはその………」

水銀燈「あらぁあなたはドールに欲情しちゃうお猿さんだったのぉ?」

ジュン「そ、そんなことはないけど、その…さ」

水銀燈「そんなことがないのなら早く布団に入りましょう?湯冷めして風邪を引いては真紅に怒られるわぁ」

ジュン「その………」

水銀燈「ほら、早く!」

ジュン「う、うわあ。押すなよ」

水銀燈に無理やり布団に押し込まれた

水銀燈「ふ〜ん貴方、良い匂いね。すごく落ち着くわ」

小さな少女の小さな頭が胸に押し付けられる。それがすごくドキドキして水銀燈に聞こえちゃわないか心配だった

ジュン「シャンプーの匂いだろ。それより本当に一緒に寝るのか?」

水銀燈「当たり前でしょ。はぁ本当にいい匂いね」

平常を装いなんとか穏便に水銀燈を説得しようとするが無駄なようだ。さらに頭を押し付けてくる。

ジュン「そんなにいい匂いかな?」

水銀燈「貴方はいつも嗅いでるからわからないものなのよ。私は今までメグの匂いしか知らないからとても新鮮だわ」

ジュン「ふ〜ん。そういうものかな?」

水銀燈「そういうものよ。貴方に抱っこされるのも、貴方の匂いも、貴方の感触もすべて新しくてそれを感じることが幸せなのよ」

水銀燈「それに早く触れられなかったのが私が真紅に唯一負けた部分だわ」

ジュン「唯一か…」

今まで僕の知っている水銀燈らしからぬ行動だったので戸惑ったが、唯一ってところが妙に彼女らしくて安心した。

水銀燈「貴方は私があの子より劣ってるとでもいうの?」

ジュン「そういうわけじゃないかな。水銀燈は水銀燈で一番だし、真紅は真紅で一番なんだよ」

水銀燈「よくわからないわ。一番には一人しかなれないから一番なのに矛盾しているわ」

ジュン「簡単に言うと人それぞれってことだよ」

水銀燈「都合の良い言葉ね」

ジュン「そうだね…」

しばらく無言が続く、シンと静まり返った部屋に規則的なコチッコチッと秒針が動く音が聞こえる。その音が普段よりもずっと大きな音に聞こえる。

水銀燈「…………」

ジュン「……………」

水銀燈「貴方にとって私は一番?」

ジュン「……そうだね。一番だね」

いきなりの問いにそう答える。そう答えなければいけない気がしたから

水銀燈「それは一番好きってこと?」

ジュン「…………好き。といえば好きかな?嫌いってことはないと思うし……」

よくわからない。水銀灯の意図することがいまいち理解できないで居た。

だから、濁すように曖昧に答えた。

水銀燈「それは、恋愛対象として好きなの?」

ジュン「れ、恋愛対象!?」

予期せぬ言葉に驚く。水銀燈からそんな言葉が出るとは思わなかった。

水銀燈「私は貴方が好きだわ。貴方の心を私の物にしたいの」

なにも言い返せない。

水銀燈「私が貴方たちに酷いことしてきたのは謝るわ。でも、貴方が欲しいの。この憤りはどうにもできないわ」

ジュン「水銀燈……」

水銀燈「私は愛に飢えた人形なの。お父様に愛してもらうためどんな手を使ってでもアリスになろうとした…でも、いまは貴方に愛して欲しいの」

水銀燈「一人の恋愛対象がダメなら、人形としてでもいいわ。私をそばに置いて愛でて欲しいの…」

水銀燈の切実な願いが小さい少女の相応の願いに思えたから叶えてやりたいと思った。

ジュン「…辛かったんだな。大丈夫だよ。僕は水銀燈を好きだよ。一人の恋愛対象として」

僕は黒い羽の天使を抱きしめた。かすかに震えている水銀燈がとてつもなく愛しく思えた。

水銀燈「…本当?」

ジュン「あぁ…」

上目遣いで尋ねてくる水銀燈は本当に天使みたいで―――

水銀燈「本当なら証拠に接吻をして欲しいわ」

ジュン「接吻…ってキスのこと!??」

水銀燈「そうよ。本当に私を愛してくれるならそれぐらいして欲しいわ」

ジュン「…わかった」

驚きながらも彼女の願いを叶えてやりたかった。
僕は水銀燈の唇に自分の唇を重ねた

水銀燈「んっ……ただの接触でこんなに鼓動が高鳴るなんて…」

ジュン「水銀燈……」

水銀燈「フフ…わかってるわ。私は元から貴方にすべてを捧げるつもりだったから」

ジュン「う、うん………」

水銀燈はあぁ言ったものの何をしたらいいのかわからない。すぐ近くには真紅や翠星石が寝ている。

水銀燈「フフ…どうしたの?」

水銀燈が尋ねてくるが何を言ったら言いのかわからず「あぁ、」とか「うん」とかで言葉を濁す。
そんな僕を見てか彼女は微笑みながら

水銀燈「何をしたらいいのかわからないのね。いいわぁ、私が教えてあげる」

そう言って僕を半身起こすと僕の背中に回り耳元で囁いて来る。

水銀燈「フフ、貴方の胸の運動が激しいわぁ」

寝間着越しに胸の辺りを撫で回す。その手つきが淫らでさらに心臓は早く鼓動する。

水銀燈「私も貴方に負けないくらい高鳴ってるわよぅ」

背中に水銀燈が密着する。確かに鼓動は感じるがそれが僕のなのか、水銀燈の物なのかはわからない。ただその胸を撫でる手つきと、耳元で息を吹きかける様な囁きに僕の脳は沸騰し、半ば思考を停止していた。

水銀燈「やっぱり貴方はドールに欲情してしまうお猿さんだった訳ね。」

へ?まどろむ思考では状況が把握できなかった。

水銀燈「まったく、これだから人間のオスは・・・猿以下ね、下卑たチンパンーだわぁ」

豆鉄砲を喰らった鳩の様に唖然とする僕をよそに「今日は帰らせてもらうわぁ」と言って窓を開ける水銀燈。

水銀燈「あ、言っておくけど、貴方は私のものになったから、貴方は私以外を愛してわだめよぉ」

最後にそう言い残し、真っ黒な羽を持つ少女は真っ暗な空へ飛んでいった。僕は漆黒の天使をただ見送ることしか出来なかった。


    ◆    ◆    ◆    ◆


「帰って来たのね。水銀燈。」

真っ暗な部屋から少女の声が響く。明かりは月明かりしかなかった。なぜならそこは病院だったから。消灯時間はとっくに過ぎてる。漆黒の天使はある病室の窓枠に外を眺めながら腰を降ろしていた。

水銀燈「メグ、起こしちゃったかしらぁ?」

メグ「元から寝てなど居ないわ。そんなことよりどこに行ってたの?」

水銀燈「メグには関係ないわ。ちょっとした野暮用よ」

一瞬ドキッとしたがとぼける。好きな人の所に行っていたとは口が裂けても言えない。

メグ「野暮用ねぇ?好きな人の所へ行くのは私には関係ないか」

「相談してくれてもいいのに」と後に付け加えて笑う。

水銀燈「なッッッ……何でメグが知ってんのよ?」

図星を突かれてメグの方に振り向き驚いた様子の水銀燈の反応に驚くメグ

メグ「まさか、本当なの?適当にカマかけただけなのに……」

水銀燈「………………」

照れ隠しのように外に視線を戻し急に黙り込んだ水銀燈から肯定を汲み取ったらしいメグはクスクス笑い始めた。

水銀燈「な、なんで笑うのよぅ」

もう一度振り向き顔を赤くして怒る。

メグ「まさか、一番ありえないと思ってたことが事実だなんておかしくて」

笑いが収まらないメグに腹を立てて窓枠を握り締める。反論したいが言葉が見つからない、すべて事実だから。病院の前の道路にはまばらに車が走っていた。

メグ「で、どこまで行ったの?」

水銀燈「………………」

メグ「怒らないでよ。もう笑わないから。で、キス位はしたの?」

思わず動揺して窓枠から落っこちそうになる。なぜ、そんな鋭いのか。

メグ「その調子だと出来たみたいね。よかったね」

そういうとまたクスクス笑い始めた。人の話を聞いてなぜさ\そんなおかしいのか水銀燈には気になった。

メグ「それで?結構良い所まで行ったけれど貴方が恥ずかしくなって逃げ出したって所かな。」

全て当たっている。私が何も言わなくてもわかっている様に笑い続けるメグ。笑わないって言ったくせに。
妙に苛立って窓枠から飛立つ。メグが「あっ待って」と言っていたが無視した。

漆黒の天使はなぜこんなに自分の顔が火照っているのかが不思議だった。


おしまい