萌えろ甲子園!!!

   第1話

 

 チュンチュンとまるでスズメの鳴き声が聞こえてきそうな、すがすがしい朝

 今日は順治の入学式、絶好の入学式日和となった。

 しかしながら日高家では、どたどたと騒がしい音が響いてくる。

「おい!母さん!これはいったいなんだよ!!」

 順治は2階から駆け下り、下で紅茶を飲んでいた純子にクローゼットから出てきたあるものを突きつけた。

 「何って?見て分からない?制服よ?聖マリリアの。」

 順治はもう一度手に持ったそれを広げ表と裏を確認する。

 「ふざけるなよ・・・これはどう見ても女子の制服じゃないか!母さん!いや父さん!!」

 手に持った女子制服を純子に向かって投げつけた。

 「わざわざ言い直すんじゃねぇよ順治」

 純子の声が一瞬ドスのきいた声に変わる。

 純子は立ち上がるとバッと制服を広げる。

 「さぁ!着なさい順治!!あなたは女の子!!今日から女の子になるのよ!!」

 純子の目の色が変わる。

 「馬鹿言ってんじゃ・・・ねー!!!」

 順次は制服を奪い去ると、くしゃくしゃに丸めて床にたたきつけた。

 「なぜ・・・なぜなの・・・」

 純子はへたりと崩れ落ちるとハンカチを噛んで涙を流した。

 まるでそこだけスポットライトに照らされているかのように

 「順治・・・あなたは・・・私以上の才能を秘めているというのに・・・」

 「あほかー!!!」

 順治の跳び蹴りが純子の顔にめり込む。

 その1撃でK.O. 純子は倒れた。

 「くそ・・・とりあえず中学の制服を着ていくしかないよな・・・」

 順治は中学校の制服に着替えると家を出た

 「いってきまーす。」

 一方リビング。

純子が床に横たわっている。

 「ふふ、順治・・・学校に行って自分の置かれている立場に気が付くといいわ!!」

 そう言うと純子は立ち上がり、女子制服にアイロンを掛け始めた。

 

 聖マリリア学園高等学校。

 大きな校門を抜ける、校門の入り口は小さくした凱旋門に聖マリリア学園高校と彫られたデザイン

 それでいいのだろうかと思ってしまう奇妙さ。

 校門を抜けると校舎まで一直線に桜並木が続いている。

 順治もまたその並木道を歩きながら新たな学校に期待を寄せていたわけだが・・・

 何故だろう・・・ 順治は疑問を持った。

 登校する生徒は皆女子ばかり・・・

 しかもやたらと自分に注目が集まっている気がする・・・

 やはり・・・ 中学校の制服はまずかっただろうか・・・

 だがさすがにあれを着るわけには・・・

 順治は頭を抱えた

 「ちょっと、君!!」

 声は後ろから

 順治はそーと後ろを向いた

 そこには腕を組んでこちらを見ている女性が1人、スーツを着ているあたり生徒ではない、おそらく先生だろう。

背丈は順治よりやや小さいくらい、女性としては高いほうかもしれないが、顔は明らかに幼く、その大人っぽさを主張したロングヘアーはやや似合わないといったところ。

これで制服を着ていれば誰も先生とは気が付かないだろう。

順治はそれを見てそーと右へ移動したが、その女性の視線はしっかりと順治を指している。

「う・・・俺かぁ・・・」

順治はガクリと肩を落とす。

その姿を見て女性は口を開いた。

「何で部外者の君がこんなところにいるのかな?」

女性教師と思われる人物は手を腰に当てやや前かがみに上目遣いでこちらを見てくる。

部外者・・・?ああ・・・ この制服のせいか・・・

「ああ、すみません、実は手違いで、女性用の制服を注文しちゃったみたいで・・・ いま着てこれる制服がないんですよ・・・」

あはは、と苦笑いしながら順治は頭をかいた。

「制服がない?ずいぶんとくだらない嘘をつくのね」

女性は腕を組みなおすと横目でこちらを見ながらそう言った。

「へ・・・?嘘じゃないっすよ!!俺はここの生徒で・・・」

反論しようとしたものの女性が口元に人差し指を突きつけてきたので言葉が止まってしまった。

「それがおかしいの!!だって・・・聖マリリア学園は・・・女子高だもの!!」

「へ・・・?」

周りの女子生徒の視線がいっせいにこちらに向いたのを感じながら順治は青ざめる。

「女子高・・・?」

あまりの衝撃に順治は問いかけた。

「そう、だから君がどんな嘘をつこうとここにいるのはおかしいの!」

嘘・・・

嘘だーーーー!!!!

ガクリと崩れ落ちる

「そんな馬鹿な・・・」

「わかった?そういうわけで!あなたにはちょっと来てもらうわよ。」

女性に引きずられ順治は校舎へ・・・

「ちょっと・・・ちょっとまったー!!」

何を言ってもこの女性は聞く耳を持たないのだろぅ・・・

もぅ・・・どうにでもなれ・・・・

 

つれてこられたのは校長室

馬鹿でかい茶色の机を挟んでこれまた馬鹿高そうな椅子に白髪にもさもさとひげを生やしたおっさんが座っている。

校長室というだけあって高級感あふれる雰囲気になんともいえない緊張感が入り混じっている。

「ようこそ!!わが聖マリリア学園高校へ、わっはっは」

しかし、そんな周りの硬そうなイメージをぶち壊すようにおっさんは馬鹿笑いしながら出迎えた。

「わしが理事長兼学園長じゃ!!」

なんともいえない威圧感を感じるこの状況、口を開いたのは順治をここまで引っ張ってきた女性。

「学園長、登校時校内をうろついている変質者を捕まえました!」

ぐいっと前に突き出される

「ちょっと待ってくれ!!俺はここの生徒なんだ!!それは間違いない!!」

その順治の言葉を聞くと学園長は目を光らせ、机の目の前にある分厚いファイルをすごい速さでめくっていく。

そしてすべてめくり終えた後

「残念ながら・・・入学者リストに君の名前はどこにもないのぅ」

学園長は溜息をついていった。

「そ・・・そんな・・・もう一度ちゃんと調べてみてください!!」

順治は愕然とし言い放った。

「間違いなく・・・入学者の中には・・・変質者という名前はどこにもない!!!」

後ろからドーン!と効果音が聞こえてくるような・・・

!?

・・・・・・・・?

「学園長、変質者とは彼の本当の名前ではございません」

学園長の隣にいた女性がつっこみを入れた。

学園長の秘書なのだろうか、高い身長にスラっとした体はスーツの似合う女性という感じ、髪は後ろでお団子状に束ねている、目つきは鋭く丸いふちなしの眼鏡をしている、どちらかというとふちなしの眼鏡より三角眼鏡が良く似合いそうな女性だった。

「お・・・おぅ、そうじゃったか、はておんし名はなんと申すのかの」

あまりの出来事にあっけに取られていた順治はしばらく呆然としていたが、

「日高・・・日高 順治です」

それを聞くと学園長はまた目の前の分厚いファイルをすごい速さでめくり始める。

「ふむ・・・日高・・・」

そう呟くとファイルをめくる手を止めルーペのようなものでまじまじとページを見る。

「おお、確かにあるな、日高 順治じゃ おんしあんまり頭よくないのう 入試の成績はいまいちじゃな・・・」

そのセリフに口を挟んだのは順治を引っ張ってきた女性だ。

「待ってください!!学園長!!彼は男ですよ!!そんなのおかしいじゃないですか!」

「はっはっは、直美先生、勘違いをしてもらっては困るのぅ、この学校は断じて!!断じて女子高ではない!!自由な校風を目指し!!どんな生徒でも幅広い心で受け入れる!!」

その言葉に直美先生と呼ばれた女性はズガーンと衝撃を受けていた。

「しかし・・・どういうわけだか・・・共学と宣伝していたはずが、女子生徒ばかり集まってのぅ」

そう言って自分のひげを伸ばしたり戻したりする学園長

「学園のネーミングが問題であると思われます、学園長」

隣の女性はそう突っ込みを入れると右手中指で眼鏡をクイッと上にあげ眼鏡の位置を整えた。

確かに順治は聖マリリア学園の生徒であることはゆるぎない事実。

しかし順治にとってはもはや自分がここの生徒であるか否かの問題はたいした問題ではなくなっていた。

学園長があのように言っても ここは女子高となんら変わりはない・・・

ここで・・・ここで・・・俺がしたいことはできるのか・・・?

「学園長!!」

順治は叫んでいた。

「なにかね」

学園長も胸を張って答えると順治の目をまっすぐと見つめる。

順治の目が本気の目をしていたからだ。

本気の目をしているものにはこちらも本気の対応をしなければならない、それが学園長の考えだ。

「この学校で・・・この学校で・・・」

順治はバンッと音を立て学園長の机に両手を付いた。

「野球部を作ることは可能ですか!!!」

そう、順治にとってこれが一番大切なことなのだ。

野球ができればどこでも良いと父に選ばせた高校。

もし野球ができないのであれば・・・それこそ順治にとってはいる意味のない高校なのだ。

学園長は鋭い眼光で順治を見るとひげを引っ張った。

「答えはイエスでもあり・・・ノーでもある」

その言葉に順治の目が見開く。

「わが学園は自由な校風を掲げておる、だからこそ誰がどのような部を作ろうとそれは自由じゃ・・・、しかし!実力のない部活、人数の足りない部活はまたその意味も皆無!!力のある部活には当然より良い支援を行なうが・・・、力のない部活、人数の足りない部活には消えてもらう。」

順治はつばを飲み込んだ。

「力のない部活は消える・・・」

「そうじゃ!ほぼ女子生徒のみのこの学校で・・・おんしは野球部を作ることができるかね」

ドーン!!

嘗てない衝撃が順治を襲う

この過酷な状況下・・・それは・・・

しかし俺も・・・中途半端な気持ちで野球をやるつもりはない・・・

ならば・・・

「それができぬのならば・・・転校してもらうしかあるまいな・・・ここは自由な校風じゃ、だからこそやりたいことのために転校する事もひとつの自由だと考えておる。 まぁ・・・良く考えることじゃな・・・今答えは聞かん・・・ 良く考えて答えを導きだせぃ」

 

順治と直美は一緒に校長室を出る。

そして入学式の始まる体育館への廊下を歩いた。

「へぇ・・・あなた野球やるんだね、いきなりあんなこと言うからびっくりしちゃったなぁ」

初めに口を開いたのは直美と呼ばれる先生だ。

「ええ・・・まぁ・・・」

へぇーなんて声を上げて直美は順治の顔を覗き込んだ

「あはは、さっきはごめんね、私何も知らなくて・・・」

直美は苦笑いをするとちょろっと舌を出した

「いや、仕方ないと思いますよ。それは先生がしっかり先生という仕事をしていた結果ですしね。おかげで学園長に聞きたいことが聞けましたし・・・悪いことばかりじゃありませんでしたよ。」

順治はニッと笑って見せた。

その顔を見て直美も笑顔になる。

「でも野球かぁ・・・さすがにここじゃ無理だろうね・・・野球って女の子がやるものじゃないんでしょ?本気でやりたいと思うのなら、転校するべきよね・・・」

そう・・・問題はそれだ・・・

転校・・・そう・・・答えは初めから決まっているのだ・・・

しかし、あの学園長の言葉・・・

そんなことを考えながらしばらく無言で歩いていると

「あ・・・そうだ」

不意に直美が口を開いた

「この学校にもソフトボール部があるのよ、今日も練習あるみたいだから入学式の後覗いてみたら?ほら、野球とソフトボールって似てるじゃない」

そう言って直美先生は無邪気な笑顔を見せた。

ソフトボール・・・そんなものを見てもなぁ・・・そんなことを考えながら順治は式を行なう体育館へと向かった。

 

式を終えて、各自自分の教室へ、どうやら担任は知った顔のようだ。

直美はこっちに気が付くとひらひらと手を振った

他の生徒の目線もこちらに注がれ、それがかなり気まずかった。

解散となり校庭に出たところソフトボール部が練習を行なっていることに気が付く

順治はその様子が見える土手のようになった場所に腰を下ろすとぼんやりとそれを眺めていた。

ソフトボールのグランドは野球に比べたら小さい、それにピッチャーも下手投げ限定、ボールも野球に比べたらだいぶでかい。

完全なミニチュア野球じゃないか・・・

それで本当に面白いのだろうか・・・

そんなことを考えていると不意に声を掛けられた。

「ソフトボール部を見学しているの?」

声の主はショートカットのやや体の小さな女性だ、その笑った顔から明るく穏やかな印象を受ける。

制服のスカーフの色を見る限り1年生のようだ

この学園はスカーフの色で学年を区別する

3年生は赤 2年生は青 1年生は黄色

制服が白なのでやたらとそのスカーフの色が映える。

順治はその女子生徒を見ると目をパチパチして

「ああ・・・まあね・・・」

ボーっとしていたのかそんな素っ気無い返事をしてしまった。

「日高・・・順治君だよね?」

そう言うとその女性は隣に座って顔を覗き込んできた。

「え・・・?どうしてそれを・・・?」

当然の疑問、自分は彼女のことをまったく知らないのだから。

それを聞くと彼女はにっこり笑った。

「私は岬 由愛(みさき ゆめ)。日高君のことは地区大会の決勝戦を見てたから・・・」

「あ・・・・」

そんな声を上げる、知らないわけである。

「私運動まったくだめなんだけど、あの日高君の地区大会を優勝に導いたピッチングに憧れてソフトボールやってみようかななんて思って・・・」

その言葉は嬉しい、自分のピッチングが彼女に何かを与えたならばそれは自分自身の励みにもなる。

「でもまさか日高君がこの学校に入学してくるなんて思っても見なかったけどね」

由愛はくすくすと笑った

それを見て順治は苦笑いをして頭をかいた

「ほーらそこ!二人でにゃんにゃんしてるんじゃないわよ!!」

突如目の前に背の高いショートヘアの女性が現れる、さっきまでそこでノックをしていた女性だ。

「私はソフトボール部のキャプテンよ、ただの見学なら全然かまわないんだけど、こうもいちゃいちゃされちゃうとね、うちのメンバー男いないやつらばっかりだからさぁ、あんまり気分よいもんじゃないでしょ?」

「そ・・・そんないちゃいちゃなんて・・・」

由愛は顔を真っ赤にすると両手をぶんぶん振って口を挟んだ。

「まぁそれはいいんだけど・・・ 君!地区大会優勝投手なんだって?」

ソフトボール部キャプテンは人差し指を順治に突きつけた。

「うちのチーム君から見てどうかな 特にピッチャーを見てほしいんだけど・・・」

「俺はソフトボールのことは分かりませんよ・・・」

「地区大会優勝の野球部と比べての話をしてるのよ」

ソフトボール部キャプテンが挑発的な芽でこちらを見ているのが分かる。

「下手投げ、それであの大きな球、打てないわけがないでしょう」

順治はそれに対して挑発的な言葉で返した。

それを聞いて由愛が冷や汗を流してるのが見える。

「ほほぅ 言ってくれるじゃない はっきり物事を言う子は割りと好きよ でもまさか口だけじゃないんでしょうね」

やや笑った鋭い目をこちらに向けながらソフトボール部キャプテンは言った。

「どう?1打席、私も地区大会優勝チームのバッティング見てみたいもの。バッティングまったくできないわけじゃないでしょ?」

その言葉に少しカチンと来た

4番でしたよ」

そう言って順治は立ち上がりバット置きからバットを一本引き抜く

「バット借りますよ」

そう言ってバッターボックスに立った。

「言っとくけど・・・うちのエースは・・・速いわよ?」

そう言うとキャプテンはキャッチャーマスクをかぶって順治の後ろに座る。

順治はバットを強く握り締め構えた。

ピッチャーは豪く小柄でそんな体でボールが投げられるのかと順治はやや疑問を持った。

「気合入れていきなよ!!相手は中学地区大会優勝チームの4番よ」

やや皮肉交じりの言葉でキャプテンは小柄なピッチャーに渇を入れた。

ピッチャーは頷くとサンバイザーを整える。

そして腕を風車のように回すと胸を張り体のバネを利用してボールを投げた。

!?

ドズン

ボールはキャッチャーミットに収まっている。

「あら?手が出なかった?」

キャプテンがそんな皮肉を言ったが順治には聞こえていない。

順治は愕然とした。

速い・・・!それにバッターボックスとマウンドの距離がだいぶ近いぞ・・・このタイミング・・・野球じゃありえない・・・

2投目、ピッチャーの腕の回転がさっきよりも速い

ドズン!!

順治のバットが空を切った。

「すげ・・・」

思わず順治は声を上げていた

スピードが上がった・・・

でも・・・今のでタイミングは多少つかんだ・・・

「さすがね・・・」

声はキャプテン

「その振りは伊達じゃないわね、地区優勝4番って言うのもあながち嘘じゃないみたいね」

キャプテンはニッと笑うとピッチャーにボールを投げた。

「お宅のエースも半端じゃないな・・・」

ちらりと順治はキャッチャーを見た

「当然、これでも全国常連校なんだからね・・・どうでもいいけどツーストライクよ」

「分かっているさ・・・」

順治はバットを構えなおす

全国・・・なるほど・・・力のある部活は生きる・・・か

こんなにもすごい人がこんな所にいた・・・

3投目

くる!

ピッチャーの手からボールが離れる。

・・・

この・・・

「タイミングだー!!!」

どんと足を着くと順治は腰の回転を使ってバットを振る

そのスイングスピードにキャプテンは目を丸くした

キーン!!!

ボールは・・・

真後ろへ

「当てるなんて・・・しかもタイミングが完全に合っている・・・」

驚愕の声を上げたのはキャプテンだ

野球とソフトボール似て非なるスポーツ。

特にバッティングはまったくタイミングが別のものとなる。

それこそ全国区のエースの球をこの男は1打席で合わせてきたのだ。

キャプテンは大きく溜息をついた

「まったく・・・信じられないわね・・・」

その賞賛の声は順治には届いていない。

すごい球だ・・・完全に打ったと思ったのに・・・ホップがかかっていた・・・

ソフトボールだからと・・・女性だからと・・・

俺はなめていた・・・

ピッチャーが今までにない大きなモーションでボールを投げる

!!?

さっきよりも・・・速い!!?

ドズン!!

順治のバットは空を切っていた

「はは・・・すげぇ・・・あのボールは打てねぇ・・・」

順治はバッターボックスから出た

心臓が高鳴る

この感情は何だろう、嬉しさか、驚きか、とんでもないものを見た。

「すげぇピッチャーだな」

順治はキャプテンに声を掛けた。

「ピッチャーだけじゃないよ全国に行くためにはピッチャーだけじゃだめだからね」

「ああ・・・そうだな・・・」

順治は振り返ると、ソフトボール部のメンバー全員を見た。

「でもあんたも相当すごいよ。まさか完全にあわせてくるとは思わなかったしね。あんたはこの学校にいちゃいけないよ、野球部はないし、もしできたとしてもねぇ・・・さっきも言ったとおりピッチャーだけじゃ全国にはいけない。この学校じゃどうあがいても全国にはいけないわよ。あなたは全国を狙うべきだと思うからね。転校することを勧めるわよ。」

「いや・・・もう決めたよ」

順治はそう笑顔で言った

順治は由愛と一緒にソフトボールの練習を最後まで見ていた。

その頃にはすっかり日も暮れていた。

 

「せっかくバッターボックスに入ったのに期待に答えられなかったな」

順治は帰り道由愛にそう言った。

「ううん、すごかった・・・ こんな対戦が見れるなんてちょっと得した気分だったよ」

由愛はにっこり笑った。

「ねぇ・・・ 日高君は・・・」

そこで由愛が足を止める、夕日が当たって一段ときれいに見える。

「やっぱり転校・・・しちゃうの・・・?」

順治と由愛の目が合った

順治はニッと笑ってみせる。

「しない」

その言葉に由愛はきょとんとした。

「どうして・・・」

「俺ここで野球部作るよ、女性だからって野球ができないことはない、それを今日実感したんだ。女性だから野球ができないなんて思うのはきっと間違いさ、それをソフトボール部との1打席教えられた、絶対強いチームになると思うんだ。せっかく選んだ高校だし、俺はここで野球をやりたいんだ。」

それを話す日高君の顔がまぶしい

それは夢を語る姿だから・・・?

私・・・今までにないくらいどきどきしてる・・・。

「だったら・・・私もその野球部の一番目の部員になろうかな・・・」

その由愛の言葉に順治は目を丸くした。

由愛は顔を真っ赤にしてもじもじと言った

「ほら・・・マネージャーとかも・・・必要になるんじゃないかなぁって・・・」

順治はギュッと由愛の手を握った

「ありがとう!!!これで野球部甲子園出場に大きく近づいた!!!」

順治の目は輝いている。

「甲子園・・・!?」

由愛は固まった。

「よしこれで2人あと7人いれば野球ができるな。」

順治は指折り数え計算する。

「ちょ・・・私は選手じゃ・・・」

「よーし!!!!いくぞ甲子園!!!!!」

順治は夕日に向かって右手を突き上げた。

 

次の日

「学園長!今日はお話があってきました!」

順治は校長室に入るなりまじまじと学園長を見つめ言った。

「おう、何でも申すがよい変質者君!!」

「日高順治が本当の名前です、学園長」

つっこみは隣から・・・

「俺は・・・ここで野球部を作ることを決めました。」

鋭い目で学園長を見て言う、本気の目だ。

「ここで野球部を作るからには・・・弱小であっては困る!上を目指してもらうことになるぞ」

その学園長の言葉に順治はニッと笑った。

「ならば・・・聖マリリア学園は甲子園に行きます!!!!」

 

続く