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2008.06.10 (Tue)

山掛けは禁物なり 

実技試験前日。

前日に猛練習しても逆効果だろうと判断した私は、

弥生を誘って日本料理屋でランチをとることにした。

目的はとんかつ(とん勝つ)である。

最近はさすがにやらなくなったが、子供の頃は

発表会やコンクールの前日に、母が必ずとんかつを作ってくれた。

この梅澤家流 縁起かつぎを思い出し、急にとんかつを食べたくなったのだ。

 

25歳にして初めて実家を離れた私にとって、毎日の食事には

苦労していた頃である。

久しぶりに口にするまともな食事と、楽しいおしゃべりで、

心身ともにエネルギー補給された気分だった。

 

 

実技試験は全て公開で行われる。

私も視察に行ったが、日本の入試のように事務的でピリピリした

雰囲気はなく、そういった意味ではリラックスして弾ける環境だと思った。

中には素晴らしい演奏に、審査員も含めて拍手が沸き起こったりして、

試験ではなく、まるでコンサートであるかのような錯覚に陥ることもあった。

 

夕方になって、ようやく自分の出番になった。

「ミホコ ウメサワ?」 

名前の確認から始まり、次に演奏曲を指示される。

「では、まず好きな曲を弾いてください。何を弾きますか?」

「はい。では、ショパンのポロネーズを弾きます」

 

エフラー先生とのシュミレーション通りだった。

 

ショパンを半分ほど弾いたところで演奏をカットされ、

次にバッハを、そして予定通りエチュードを指示された。

 

弾き終えたところで、”よし、ベートーヴェンがくるな・・・。”と

気分はすっかりベートーヴェンになっている時に、なんと、

「では、次にラヴェルをお願いします」

と言われた。

 

「・・・え?ベートーヴェンですよね・・・?」

思わず聞き返した私に、いたずらっぽく笑う審査員の先生。

「いいえ。ラヴェルを弾いて下さい。」

 

エフラー先生の方を見たら、顔はうつむき加減に、目は上目遣いで

私を見て、クックックと肩を震わせて笑っているではないか。

”・・・・・・うそ。。やられた・・・。”

 

観念した私は、ここで諦めるわけにはいかない、

一応、練習はしていたことだし・・・と、自分を勇気付け、精一杯の演奏を

することにした。

 

試験後のエフラー先生の第一声は、

「ベートーヴェン、弾けなくて残念だったねえ・・!」だ。

先生にとっても意外な展開だったとおっしゃっていたが、

私にとってはある意味裏切られたような気分だった。

 

試験に山掛けは禁物。また教訓が増えた。

 

 

 

 

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